【コラム】半人工製瓶とはどんなもの?原料や製作過程について解説
半人工製瓶は、自動製瓶よりも形状の自由度が高く、デザイン性を追求できる点が魅力です。本記事では、半人工製瓶とは何か、原料や製作過程にも触れながら解説します。半人工製瓶について知りたい方や半人工製瓶の製造を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
半人工製瓶とは、「種巻き」「切り込み」「瓶出し」を担当する3人の職人が連携して作る瓶のことです。金型で量産する自動製瓶に対し、ほとんどの工程を手作業で行うため、容器の形状を微細に調整できるメリットがあります。一方でコストが高く、1日に製造できる数が少ないことから、現在主力製品として扱っているメーカーは多くありません。オリジナリティのあるガラス瓶を製造できる点では、香水瓶や化粧品容器などのデザイン性が求められる製品に向いていると言えるでしょう。
半人工製瓶に使われている原料の9割は、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラスです。まずは、それぞれの原料に含まれる大まかな成分や用途を知り、半人工製瓶について理解を深めていきましょう。
・ソーダ石灰ガラス
ソーダ石灰ガラスは、珪砂(けいしゃ)やソーダ灰、石灰で構成されるガラスです。主成分は珪砂(二酸化ケイ素)で、多くの場合、窓ガラスや飲食用のビン・容器などに使われます。なお、ソーダとは原材料の炭酸ナトリウムを指す言葉です。
・鉛ガラス
鉛ガラスは、成分の5~6割がニ酸化ケイ素、残りの5~4割が酸化鉛や酸化カリウム、その他酸化物でできたガラスです。飲料用ガラスをはじめ、花瓶や鉢、灰皿、装飾品に使われています。また、見た目の美しさから「クリスタルガラス」とも呼ばれており、ソーダ石灰ガラスなどに比べて屈折率が高いのも特徴です。
・ホウケイ酸ガラス
ホウケイ酸ガラスは、成分の約8割が二酸化ケイ素でできており、そこに微量のホウ酸、酸化カリウム、酸化アルミニウムが含まれています。用途としては、製薬産業のアンプルや薬瓶、化学工場の製造プラント、実験器具、高輝度照明器具、家庭用耐熱薬品など、産業用製品への使用がほとんどでしょう。
・特殊ガラス(石英ガラス)
特殊ガラスは、シリカガラスや石英ガラスとも呼ばれ、二酸化ケイ素のみで作られます。熱膨張が非常に小さいことと、透明度や耐食性、耐熱性の高さから、光電気化学などの特殊な分野に用いられています。
ここからは、半人工製瓶に使われる原料の詳細な成分や化学記号、用途について紹介します。
・個々の原料
原料名 | 化学記号 | 用途 |
珪砂 | ケイ酸(SIO2)99.8% アルミナ(AI2O3)0.04% 酸化鉄(Fe2O3)0.008% |
主成分 |
ソーダ灰(炭酸ナトリウム) | Na2CO3 | |
石灰石(炭酸カルシウム) | CaCO3 | |
硼砂(ホウサ・無水ホウ砂) | Na2B4O7 | |
硝酸ソーダ | NaNO3 | |
亜ヒ酸 | As2O3 | |
長石 カリ長石 ソーダ長石 灰長石 |
K2O・Al2O3・6SiO2 Na2O・Al2O・6SiO2 CaO・Al2O3・6SiO2 |
|
炭酸マグネシウム | MgCO3 | 主成分(溶融剤) |
ドロマイト(白雲石) | Ca・Mg・(CO3)2 | |
亜鉛華(酸化亜鉛) | ZnO | 機能(融剤) |
塩化ナトリウム | NaCl | 機能(泡切剤) |
アンチモン(生アンチ) | Sb | |
硝石(硝酸カリウム) | KNO3 | 機能(融剤・泡切剤) |
炭酸バリウム | BaCO3 | |
光明丹(鉛丹) | 四酸化三鉛 Pb3O4 | 機能(光沢・屈折) |
炭酸リチウム | Li2CO3 | 機能(融剤・泡切・光沢) |
ホウ酸 | H3BO4 | 機能(硬質) |
芒硝(ぼうしょう) | Na2SO4 | 機能(バリ防止) |
酸化第一錫 | SnO | 機能(還元剤) |
酒石酸カリウムソーダ | C4H4O6・KNa・4H2O | |
硝酸カリウム | KNO3 | カリウム源 |
酸化セリウム | CeO2 | 遮蔽ガラス原料 |
・色別適用原料
原料名 | 原料名 | 化学記号 |
砡(ぎょく) | 蛍石(フッ化カルシウム) | CaF2 |
氷晶石(ケイフッ化ソーダ) | Na2SiF6 | |
骨石(リン酸カルシウム) | Ca3(PO4)2 | |
クレー粉(アルミナ) | Al2O3 | |
硫酸バリウム | BaSO4 | |
乳白 | 氷晶石(ケイフッ化ソーダ) | Na2SiF6 |
酸化アルミニウム(アルミナ) | Al2O3 | |
水酸化アルミニウム | Al(OH)3 | |
亜鉛華(酸化亜鉛) | ZnO | |
硫酸バリウム | BaSO4 | |
黄色 | 塩化銀 | AgCl |
硫酸カドミニウム | CdS | |
二酸化マンガン | MnO2 | |
酸化ウラン | UO、UO2 | |
硫黄 | S | |
クロム酸カリウム | K2Cr2O7 | |
酸化セリウム | CeO2 | |
酸化チタン | TiO2 | |
炭素 | C | |
ピンク | 硫黄(未、華) | S |
二酸化マンガン | MnO2 | |
亜鉛華(酸化亜鉛) | ZnO | |
硫化カドミニウム | CdS | |
セレン | Se | |
亜セレン酸ソーダ | Na2SeO | |
赤 | 酸化第一銅 | Cu2O |
酸化第一錫 | SnO | |
セレン | Se | |
亜セレン酸ソーダ | Na2SeO3 | |
硫化カドミニウム | CdS | |
硫黄(未、華) | S | |
酸化アンチモン | Sb2O3 | |
亜鉛華(酸化亜鉛) | ZnO | |
金 | Au | |
酸化ネオジウム | Nd2O3 | |
酒石酸カリウムソーダ | C4H4O6・KNa・4H2O | |
茶 | 酸化第二鉄 | Fe2O3 |
二酸化マンガン | MnO2 | |
硫黄 | S | |
硫化カドミニウム | CdS | |
酸化第一銅 | Cu2O | |
重クロム酸カリウム | KHCr2O7 | |
炭素 | C | |
硫化鉄 | FeS | |
青 | 酸化コバルト | Co3O4 |
酸化第二銅 | CuO | |
酸化第一鉄 | Fe3O4 | |
硫酸銅 | CuSO4・5H2O | |
クロム酸カリウム | K2Cr2O7 | |
重クロム酸カリウム | KHCr2O7 | |
緑 | 二酸化マンガン | MnO2 |
重クロム酸カリウム | KHCr2O7 | |
酸化第一鉄 | Fe3O4 | |
酸化第一銅 | Cu2O | |
酸化クローム | Cr2O3 | |
酸化コバルト | Co3O4 | |
酸化バナジウム | V2O5 | |
クロム酸カリウム | K2Cr2O7 | |
酸化プラセオジム | Pr2O3 | |
紫 | 二酸化マンガン | MnO2 |
酸化第一鉄 | Fe3O4 | |
酸化モリブデン | MoO | |
酸化コバルト | Co2O3 | |
酸化ニッケル | NiO | |
酸化タングステン | WO | |
酸化ネオジム | Nd2O3 | |
黒 | 二酸化マンガン | MnO2 |
重クロム酸カリウム | KHCr2O7 | |
酸化コバルト | Co3O4 | |
酸化ニッケル | NiO | |
酸化第二鉄 | Fe2O3 | |
酸化第一銅 | Cu2O3 | |
酸化鉛 | PbO | |
炭素 | C |
半人工製瓶は、次の5つの過程によって制作されます。
1.坩堝(るつぼ)からガラスを巻き取る
坩堝で溶かしたガラスを、種巻きの職人が鉄の棒で巻き取ります。ガラスの温度は900~1,200°Cと高温の中、巻き取る量は職人の感覚次第です。気泡が入らないよう手際よく巻き取らなければならず、温度の微調整と熟練された技術が求められる非常に高度な作業と言えるでしょう。
2.巻き取ったガラスを金型へと切り落とす
巻き取られたガラスは、切り込みの職人によって、粗型(わんがた)と呼ばれる大まかな瓶の形に整える金型へとはさみで切り落とされます。ここまでの流れでかかる時間は1回15秒程度で、1日に1,000回以上繰り返す作業です。
3.瓶の口部分を成形する
半人工瓶の口部分を成形する際は、自動製瓶と同様にエアー(圧縮空気)を使うケースがほとんどです。差が出ないように、職人がエアーの入れ方とタイミングなどを工夫して調節しています。
4.仕上げ型に入れ替えて最終的な瓶の形に成形する
それぞれの方法で口部分が成形されたガラスは、仕上げ型に入れることで最終的な瓶の形に仕上げていきます。
5.型から取り出して徐冷する
瓶出しの職人が型からガラスを取り出します。成形直後のガラスは約700°Cとまだ高温で、急激に冷やすと傷や歪みが発生してしまうため、徐冷炉で段階的に冷まして完成です。
半人工製瓶は、コストの高さや1度に量産できないことがデメリットではあるものの、オリジナルのガラス容器を作りたい方にはおすすめです。製造の際は、必要な生産数や他の包装、販売方法なども踏まえて、コストバランスを考えることがポイントになるでしょう。