【コラム】オフセット印刷とは?メリットとデメリットをそれぞれ紹介
オフセット印刷は、新聞や出版物など大量の印刷物を作成する際に広く活躍している、歴史の長い印刷方法です。 今回は、オフセット印刷の仕組みや、オフセット印刷機を使用するメリットとデメリットも詳しく解説します。近年の印刷業界の課題についても触れているので、ぜひ参考にしてください。
オフセット印刷は版を使用して行う印刷方法で、凹凸がない平らな板を使う平版印刷の一つです。現在の主流となる印刷方法であり、写真や色、文字の再現性に優れ、短時間で大量の印刷ができるため、新聞紙や出版物、チラシ、書籍など、多くの商業印刷や美術印刷で活用されています。 「オフセット」とは、版と印刷用紙が直接接触しない印刷方式からきている名前です。刷版に塗られたインクは、ブランケットと呼ばれる樹脂やゴム製の転写ローラーに一度移し(オフ)、その後ブランケットを介して印刷用紙に転写(セット)されます。
ここからは、オフセット印刷の仕組みを詳しく解説していきます。
・オフセット印刷の工程
オフセット印刷の工程は、印刷前工程・印刷・印刷後工程の主に3工程です。 はじめに、印刷物のデザインの企画後に版下を作製し、次に製版作業、印刷作業と進めていき、最後に製本や加工作業を経て納品されます。
・オフセット印刷の原理
オフセット印刷は、版に塗布したインクをブランケット胴に写し、その後用紙に転写して印刷することで、版のデザインが用紙に再現される仕組みです。版は凹凸のないアルミで作られており、水と油(インク)の反発する性質を利用してインクが写る部分と写らない部分を分けることで印刷します。画線部にのせるインクには、水分より乾きの早い顔料油性インキを使用することが特徴です。
版が直接紙に触れないため、摩擦が少なく済むことでスピーディに仕上がり、大量印刷を可能にします。
・網点とは
オフセット印刷では、「網点」と呼ばれる小さな点の集まりを利用することで、文字やデザインなどを表現しています。網点は、スクリーニングという作業でデータから変換され、小さな点の配置や数、大きさによって印刷の鮮やかさが決まり、印刷物のニュアンスを調整することも可能です。
・オフセット印刷機について
オフセット印刷機には、以下の2種類が存在します。
●紙1枚ずつに印刷する枚葉印刷機
●ロール紙に連続印刷する輪転印刷機
枚葉印刷機は1枚ずつ印刷し、用紙の厚みやサイズを柔軟に調整できるため、小ロットの印刷やポスター・チラシなどの印刷に最適です。両面印刷や多色刷りが可能な機種もあり、印刷後は自然乾燥してから加工工程に進みます。
一方、輪転印刷機はロール紙を使用して連続印刷を行う仕様で、新聞や雑誌、書籍などの大量印刷に適している印刷機です。ただし、インクを乾燥させる際に熱風ドライヤーや冷却装置を使用して大量の電力を消費してしまうことから、環境への影響が懸念されています。
ここでは、オフセット印刷のメリットを紹介します。
・大量印刷に向いてる
オフセット印刷の刷版にはコストがかかりますが、一度作った版は内容が同じであれば何度も使用可能です。そのため、大量印刷の際に使用するとコストを抑えることができます。また、必要な箇所に正確にインクをのせられることから、完成度の高い表現ができるのもメリットです。
・色鮮やかな印刷ができる
オフセット印刷は、印刷工程でインクがしっかりと印刷物に定着し、色を鮮明に再現することが可能です。細かい網点によって色の濃淡を正確に表現できるうえ、にじみも起こりにくいため、高品質な仕上がりを目指せます。
・短時間で印刷できる
オフセット印刷は印刷スピードが速いため、他の印刷機よりも短時間で大量の印刷が可能です。特に、ロール紙を使用する輪転印刷機は、より生産性が高く、多くの場面で広く活用されています。
また、版があれば繰り返し印刷できるため、再版になった場合もコストを抑えた対応が可能です。
最後に、オフセット印刷のデメリットを見ていきましょう。
・小ロットの印刷には向いていない
大量印刷に最適なオフセット印刷ですが、刷版の作製にコストがかかるため、小ロットの印刷では割高になる可能性があります。特に、1,000部未満は不向きと言えるでしょう。きれいに仕上げつつ少数の印刷をする際は、他の印刷方法を選ぶことをおすすめします。
・ CO2排出量が多い
オフセット印刷は、製版や印刷工程で排出されるCO2の量が比較的多く、CO2排出量を削減しやすいデジタル印刷よりも環境優位性の低さが指摘されています。
特に、輪転印刷機はインクを乾燥させる際に使う乾燥装置が大量の電力やガスを消費する仕様です。近年では、輪転印刷機を使用している印刷会社の電力を規制する自治体もあるなど、環境に配慮した印刷機の使用が求められています。
・版で印刷内容が固定される
印刷内容が版で固定されるオフセット印刷は、印刷内容を1枚ごとに変更するバリアブル印刷には対応しきれないでしょう。バリアブル印刷は可変印刷とも呼ばれ、名刺やキャンペーンコードが記載されているチラシなどで利用される便利な印刷方法です。
バリアブル印刷に対応できないことは、近年のマーケティングを進めていくうえで大きなデメリットとなってしまいます。
・余分に印刷する必要があることが多い
大量印刷を前提に使用されるオフセット印刷は、初期費用がかかります。特に、需要を正確に予測できない印刷物を作成する際は、多めに印刷を行うことがほとんどです。無駄に多く印刷しているのに加え、在庫ができた場合の印刷物の管理や廃棄にもコストがかかり、さらには焼却処分によるCO2排出リスクも発生します。 結果として、在庫を抱えてしまうと大量印刷でのコスト削減計画が妨げられるだけでなく、環境にも負担がかかってしまうほか、企業の負担も増える可能性が高まるでしょう。
・トラブル対応に時間がかかる
オフセット印刷機は、版やインク、印刷機などさまざまな要因がトラブルの原因となるため、トラブル発生時の問題の特定に時間がかかりやすいでしょう。
たとえすぐにトラブルが特定されたとしても、解決にはインク粒子や網点、用紙、湿し水など細かな調整が必要です。いざトラブルが発生した際、これらを適切に行うには経験とスキルが欠かせません。
・技術の習得に時間がかかる
オフセット印刷機で高品質な成果物を提供するには高度な印刷技術が必要で、その技術習得には通常5〜10年の時間がかかると言われています。しかし、デジタル化が進む中でオフセット印刷の魅力を若者に伝えることは難しいでしょう。さらに、若手人材不足のため、熟練工が後継者に技術を伝えられなくなっている点も問題です。印刷業界がデジタルマーケティングの視点でアプローチすることで、新たなビジネスモデルを模索し、若者の就職率を上げる必要があるでしょう。
オフセット印刷は、コストを抑えるほか、スピーディで高品質かつ大量印刷を可能にした印刷方法です。しかし、「CO2排出量が多い」「柔軟な使用が難しい」「継承者がいない」といったデメリットもあります。今後の印刷業界には、環境に配慮した印刷機や若者に受け入れられやすい視点が必要になるでしょう。