【コラム】食品衛生法の改正によって導入された容器のポジティブリストとは?
食品衛生法は2018年6月7日に改正され、2020年6月から施行されています。なかでも食品容器に関してはポジティブリスト制度が導入され、改正以前とは規制の内容が変更されているため、注意が必要です。今回は食品衛生法の改正について、食品容器を中心に紹介します。
食品衛生法の改正によって、食品を取り扱う方法に従来よりも厳格な基準が設けられました。食品を扱うさまざまな工程でルールを設け、記録を行うなど集団食中毒食や感染症から食の安全を守ることが目的です。この章では、食品衛生法の変更内容について説明します。
食品衛生法の改正にともなって、まずHACCP(ハサップ)導入が義務化されました。HACCPとは、食の安全を守るために食にかかわるすべての業種で導入された制度です。
食品を作る過程で細かくルール分けし、製造工程を日頃から記録として残すことで、食の安全に対する意識を高めることを目的としています。食品製造業者だけでなく、飲食店などもHACCP導入の対象です。つまり、施行後はすべての食品製造業者や飲食店で、HACCP書類の作成・管理・保存が義務付けられているため、食の安全が守られています。
調理器具や容器包装にポジティブリスト制度が導入されたことによって、消費者の口に直接入るものに限らず、一定の安全基準が設けられるようになりました。これによって食品そのものでなく、梱包手順や提供方法などにも安全に対する配慮が求められています。衛生面だけでなく使用素材にも配慮されるようになり、消費者がより安全な食生活をおくれるようになったと言えるでしょう。
営業許可制度も、食品衛生法の改正によって大きく変更された項目の一つです。以前は食品を提供する業務を行う場合、取り扱う食品に該当する許可を受けることが条件でした。しかし、許可業種が34種類もあり、複数のものを取り扱う場合はその都度許可が必要であったことや、該当する業種がないといったケースもあり、手続きが複雑化していたのです。 直近の改正によって34の許可業種が見直され、経営する店舗の実態に見合った許可制度が導入されるようになったのも大きなポイントです。これにより、複雑だった手続きが簡略化され、スムーズな経営が行えるようになりました。
健康被害をもたらす健康食品やサプリメントの被害防止、不備のあった食品の自主回収方法についても、改正された点があります。健康食品やサプリメントによる悪質な健康被害は、二次被害を防止するためにも、速やかに対応しなければなりません。そこで、厚生労働省は専用の窓口を設置したうえで調査を行い、健康被害が該当製品によるものと認められた場合は、製品名などの情報を公表するようになりました。被害の拡大を抑える効果だけでなく、品質低下の抑止力としても効果を発揮しています。
食品容器のポジティブリストは、食品衛生法の改正内容の中でも基準が大きく変化したため、重要視されています。以下では、どのような点が改善前と異なっているのかを見ていきましょう。
ポジティブリストは、すべての物質の使用を禁止する前提のうえで、例外的に使用許可できる器具や容器などをリストアップ方式で定めた規制のことです。安全性の可否が難しいグレーゾーンのものはリストアップされないため、安全性の高さが特徴と言えます。ポジティブリストの導入により、使用可否の判断基準が明瞭になるため、経営者側にとってもメリットが大きい制度です。
ネガティブリストは、すべての物質が使用できることを前提とした考え方で、リストの中にある禁止指定されたものだけを使用不可とする規制です。そのため、禁止指定を受けていないものであれば、安全性が確認できていない場合でも、使用可能となる問題がありました。安全性が立証されていないにもかかわらず、使用するかどうかは経営者の裁量に委ねられていたため、現在の国の基準には見合わないとされ、廃止されました。
ポジティブリストの対象となる調理器具や包装は、直接的に食品と接触するものすべてを指します。食品に直に触れるものは、品質の劣化や器具の成分付着などが考えられるため、食の安全において着目しなければならないポイントです。製造、販売、調理、貯蔵、陳列、摂取など食品の加工段階にかかわらず適用対象とされるもので、製造工程で用いられる機械などもこれに該当します。上記のものを対象とすることで、衛生面でも大きな効果が得られるため、安全性の基準がさらに高まりました。
食品用器具・食品包装以外に、食品容器もポジティブリストの対象となっています。食品容器にはさまざまな材質があり、形状や色合いも豊富であることから、つい第一印象で選んでしまいがちです。下記でポジティブリストの対象となる材質を確認したうえで、見た目だけでなく、安全性が認められたものを選びましょう。
ポジティブリストの対象となる範囲は、厚生労働省『改正食品衛生法における器具・容器包装 に関する政省令等の策定状況について』によって明確に定められています。内容は以下の通りです。
●さまざまな器具及び容器包装に幅広く使用され公衆衛生に与える影響を考慮すべきこと
●欧米等の諸外国においてポジティブリスト制度の対象とされていること
●事業者団体による自主管理の取組の実績があること
資料を基にすると、合成樹脂のみポジティブリストの対象に該当します。
合成樹脂とは、天然の素材を使用せずに、主に石油から作られたポリマーと呼ばれる高分子化合物を指します。加工のしやすさから、現在ではさまざまな用途で使用されており、軽くて丈夫な材質であることが特徴です。ポジティブリストの対象となっているのは、合成樹脂の主成分である基ポリマーとコポリマー(共重合体)の合成物に添加物を加えたものであり、リスト内では以下の4つに分類されています。
1.基ポリマー(プラスチック):約70樹脂
2.基ポリマー(コーティングなど):1,000物質以上
3.基ポリマーに対して微量で重合可能なモノマー:約250物質
4.添加剤・塗布剤:約2,000物質以上
ポジティブリストの対象となる合成樹脂の分類は、以下の表の通りです。
熱可塑性プラスチック | ポリエチレン、ポリスチレンなど |
熱可塑性エラストマー | ポリスチレンエラストマー、 スチレン・ブロック共重合体など |
熱硬化性プラスチック | メラミン樹脂、フェノール樹脂など |
ブタジエンゴムやニトリルゴムなどのゴム(熱硬化性エラストマー)は、ポジティブリストの対象外となっています。また、包装に使用される紙の食品接触面に、顔料塗工や外添薬剤、内添薬剤など合成樹脂の層が形成されていないものも対象外とされます。
食品衛生法の改正によって、容器の安全基準も大幅に引き上げられました。食の安全を守るためにも、ポジティブリストの内容をよく理解したうえで安全性の高い容器を使用することが大切です。適切な容器を選ぶ基準を身につけ、国の規約を守って経営を行いましょう。