【コラム】自宅で食品の販売や飲食店の営業をするにはどんな許可や資格が必要?
飲食店を開業したいと考えている方の中には、自宅を改装して始めたいと思う方も多いのではないでしょうか。自宅を改装すれば、物件を探して店舗を購入または借りる必要がないため、少ない費用で開業できます。しかし、食品の販売や飲食店を開業するには資格や許可が必要です。
この記事では、開業の際に必要な資格や許可、条件について詳しく解説します。自宅で開業を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
まずは、自宅で飲食店を開業するのに必要な資格を紹介します。
・食品衛生責任者
食品衛生責任者は、自宅での開業にかかわらず、飲食店を開業する際に不可欠な資格です。食品衛生法に定められた規則に従って衛生管理を行う人を指しており、施設ごとに1名の配置が義務付けられています。
また、食品衛生法の改正により、2021年6月1日から食品を扱うすべての事業者に対してHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が義務化されました。飲食店を営業する際は法令を遵守し、徹底した衛生管理が求められます。
・防火管理者
収容人数が30名以上の飲食店を開業する際は、防火管理者の資格が必要です。防火管理者とは、施設の火災による被害を防止するために必要な業務を行う責任者のことで、さらに以下の2種類に分けられます。
● 甲種防火管理者:延床面積が300m²以上の施設
● 乙種防火管理者:延床面積が300m²未満の施設(甲種でも可)
自宅で飲食店を営業するには、保健所や税務署の許可が必要です。
・飲食店営業許可を取得する
飲食店を営業するには、自宅での営業にかかわらず保健所の許可が必要です。食品衛生法に基づき、各自治体の保健所が施設の実地検査を行い、問題なければ営業許可が交付されます。
飲食店営業許可の申請には、以下の書類が必要です。
● 営業許可申請書
● 施設の平面図と設備を示した図面
● 食品衛生責任者の資格を証明するもの
● 水質検査成績書
● 登記事項証明書(法人の場合)
・喫茶店営業許可を取得する
以前は「喫茶店営業許可」という区分で、調理を伴わないメニューの提供が可能でした。しかし、2021年5月末に廃止となり、飲食店営業許可に統合されたため、ほぼすべての飲食店を営業する際に飲食店営業許可の取得が必要となっています。
・開業届を提出する
自宅で飲食店を営業する際は、税務申告のため、開業の1か月以内に所轄の税務署へ開業届を提出しましょう。開業届とは、「個人事業の開業・廃業等届出書」のことです。開業届を提出しなくても罰せられることはありませんが、提出すれば税金の控除が受けられたり屋号で銀行口座を開設できたりします。国税庁のホームページにてダウンロードが可能です。
販売する食品によって必要な届出や許可は異なりますが、自宅で製造した食品を販売する場合は保健所から交付される「営業許可証」が必要です。
一方、卸業や小売業のように製造されたものを販売する場合は、届出の提出のみで営業できます。ただし、衛生管理について、以下のような条件が定められているので、注意しましょう。
・食品衛生責任者の資格を所有する
食品衛生責任者は、施設ごとに1名設置しますが、栄養士や調理師などの特定の有資格者以外は、自治体の定める講習会を受講して食品衛生責任者の資格を取得する必要があります。
・HACCPによる衛生管理を行う
原則として、すべての食品事業者はHACCPに沿った衛生管理を実施する義務があります。HACCPは国際基準で、製品を出荷するまでのすべての工程において徹底的な衛生管理が必要です。
自宅で飲食店を営業するには、以下の3つの条件を満たしていなければなりません。
・開業立地条件
自宅で飲食店を開業するにあたり、用途地域をクリアする必要があります。用途地域とは、計画的な都市開発のために定められたエリアのことです。住宅用や商業用、工業用など13のエリアに分けられており、それぞれに建築できる建物の用途が制限されています。
飲食店は工業専用地域を除く12エリアで開業が可能ですが、床面積や周辺環境によって制限されている場合もあるため、事前に地方自治体で確認しておきましょう。
・施設基準条件
地方自治体が定める基準に沿った施設でなければ、営業許可を取得できません。施設基準には、業種に関係なく適用される共通基準と、業種ごとに定められた特定基準の2つがあります。共通基準は「営業施設の構造」「食品取扱施設」「給水および汚物処理施設」の3項目があり、それぞれに細かな決まりが定められているので、注意が必要です。
・特定基準
飲食店を営業するには、共通基準の他に業種ごとに定められた以下の特定基準をクリアしなければなりません。
● 冷蔵設備
● 洗浄設備
● 給湯設備
● 客席
● 客用便所
営業許可を得るためには、以下の基準に沿った設備が必要です。前述した共通基準と特定基準について、より詳しく解説します。
営業施設の共通基準
1、営業施設の構造
● 清潔な場所である
● 十分な耐久性を有する構造の建物である
● 使用目的に応じて壁・板などで区画できる
● 取扱量に応じた広さがある
● 耐水性材料で排水がよく、清掃しやすい床材である
● 床から1mまで耐水性があり、清掃しやすい内壁である
● 壁との隙間がなく、清掃しやすい天井である
● 50ルクス以上の明るさがある
● ばい煙、蒸気などの排除設備がある
● 周囲の地面を耐水性材料で舗装しているほか、排水がよく清掃しやすい
● ねずみ族や昆虫などの防除設備がある
● 原材料や食品、または器具などを洗うための流水式洗浄設備がある
● 従事者専用の流水受槽式手洗い設備と手指の消毒装置がある
● 清潔な更衣室または更衣箱が作業場外にある
2、食品取扱設備
● 取扱量に応じた数の機械器具や容器包装がある
● 移動が困難な機械器具は、作業・清掃しやすい位置に配置する
● 原材料や食品、器具類を衛生的に保管できる設備がある
● 耐水性があって洗浄しやすく、熱湯や蒸気、または殺菌剤などで消毒できる器具を使用する
● 防虫、防じん、保冷のできる清潔な食品運搬具がある
● 冷蔵や殺菌、加熱、圧搾などの設備には、温度計および圧力計がある、または計量器を備える
3、給水および汚物処理
● 水道水または飲用と認められる水を豊富に供給できる給水設備がある
● 作業場に影響のない位置および構造であり、使用に便利なトイレを従事者に応じた数分設け、ねずみ族や昆虫などの防除設備、専用の流水受槽式手洗い設備、手指の消毒を設置する
● 蓋や耐水性があり、十分な容量で清掃しやすいほか、汚液や汚臭を漏らさない汚物処理施設がある
● 作業場専用の清掃器具と格納設備がある
営業施設の特定基準
● 食品を保存できる十分な大きさの冷蔵設備がある
● 基本的に2槽以上の洗浄槽がある
● 洗浄および消毒のための給湯設備がある
● 客室および客席に換気設備を設け、10ルクス以上の明るさがある
● 調理場に影響のない位置および構造の客用トイレを設置し、使用に便利なものでねずみ族、昆虫などの侵入を防止する設備があるほか、客専用の流水受槽式手洗い設備がある
自宅で食品を販売したり飲食店を営業したりする場合は、食品衛生責任者の資格や飲食店営業許可が必要です。また、自宅を飲食店にする場合は、用途地域や設備基準などさまざまな条件をクリアしなくてはいけません。改装工事を行う前に、自治体や所轄の保健所へ開業の条件を確認しておきましょう。